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平成9年12月3日

平成8年度食品中のダイオキシン類等汚染実態調査報告について


食品中のダイオキシン類等汚染実態調査について、平成8年度の報告がまとまった(詳細は別紙研究報告書のとおり)。
この調査は、平成8年度健康地球計画研究費及び厚生科学研究費(主任研究者 豊田正武国立医薬品食品衛生研究所食品部長)により行われたものであり、調査結果の概要は下記のとおりである。


1 調査目的

ダイオキシン類*1の人への主な曝露経路の一つと考えられる食品について、個別の食品の汚染状況調査、及び通常の食事から摂取されるダイオキシン類等の量に関する調査研究が行われた。

2 調査方法

(1)個別食品調査

主要な17食品(魚類3種(サバ類、アジ類及びガザミ)、肉類3種(牛肉、豚肉及び鶏肉)、牛乳、穀類1種(米)、芋類1種(じゃがいも)、豆類、果実類1種(みかん)及び野菜類6種(ほうれん草、人参、大根、たまねぎ、トマト及びキャベツ))について、個別の食品のダイオキシン汚染状況を調査した。

(2)1日摂取量調査(トータルダイエットスタディ)*2

標準的な食事による人へのダイオキシン類曝露状況を把握するため、全国3地区で集めたトータルダイエット試料(14食品群)について、ダイオキシン類を分析し、結果を集計することにより、通常の食事から摂取されるダイオキシン類の量を推計した。

3 調査項目

ダイオキシン類(ジベンゾジオキシン(PCDD)、ジベンゾフラン(PCDF))及びコプラナーPCB*3

4 調査結果の概要

(1)個別食品

ダイオキシン類の濃度は、2,3,7,8-テトラクロロジベンゾ-p-ジオキシン(2,3,7,8-TCDD)に換算して、魚介類が0.202〜1.526pgTEQ*4/g、牛肉が0.226〜0.429pgTEQ/g、豚肉が0.004〜0.021pgTEQ/g、鶏肉が0.006〜0.009pgTEQ/g、牛乳が0.005〜0.008pgTEQ/g、ほうれん草が0.095〜0.281pgTEQ/g、人参が0.001〜0.010pgTEQ/g、きゃべつ及びトマトが0.001pgTEQ/g以下、じゃがいもが0.008pgTEQ/g以下、豆類が0.001〜0.045pgTEQ/gであり、米・みかん・大根及びたまねぎについては一部のダイオキシン類が検出されたが、2,3,7,8-TCDDに換算した値は0であった。

(2)1日摂取量調査(トータルダイエットスタディ)

1日摂取量調査(トータルダイエットスタディ)におけるダイオキシン類の1日摂取量は22.1〜37.4pgTEQ/人/day、平均31.4±8.2pgTEQ/人/dayであった。
なお、これを日本人の平均体重を50kgとして、本研究から得られたダイオキシン類について体重kg当たりの1日摂取量に換算すると、平均0.63pg(範囲0.44〜0.75pg)となり、平成8年に厚生省「ダイオキシンのリスクアセスメントに関する研究班(班長:黒川雄二国立医薬品食品衛生研究所安全性生物試験研究センター長)」が提案した耐容1日摂取量(TDI値);10pg/kg/dayより相当低い値であった。
各食品群別のダイオキシン類の摂取量は、多い順に魚介類(10群)が21.2±9.1pgTEQ/人/day、緑黄色野菜(7群)が1.8±1.4pgTEQ/人/day、乳・乳製品(第12群)が1.6±0.5pgTEQ/人/day、肉・卵(11群)が1.6±0.4pgTEQ/人/day、雑穀・芋類(第2群)が1.4±1.3pgTEQ/人/dayであった。

5 今後の方針等

今回の調査は、標準的な食事から摂取するダイオキシン量を把握することを目的として、
試験的に全国3地区から試料を採取して調査を実施したものである。我が国における食品からのダイオキシン類の曝露量を正確に把握するには、全国的な調査が必要であることから、平成9年度においては、全国を7地区に分けて調査を開始しているところである。
また、個別食品の汚染実態調査についても、今回の調査結果だけでは不十分であり、今後
さらに他の食品についても調査する必要がある。


*1:ダイオキシン類

ダイオキシン類は多くの異性体をもつポリ塩化ジベンゾ-p-ジオキシン(PCDD)類及びポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)類の総称。化学物質の合成過程や燃焼過程で非意図的に生成される。置換している塩素分子の数と場所によって、それぞれ75種類及び135種類の同族体をもつ化合物群。

*2:トータルダイエットスタディ
通常の食生活において、食事を介してどの程度のダイオキシン類が実際に摂取されているかを把握するための調査方法。
調査に適切なモデル献立を設定するため、平成5年度国民栄養調査又はその基礎データとなった食品摂取量のサブデータを用い、全食品群を飲料水を含めた14の食品群(1群:米・米加工品、2群:穀類・種実類・芋類、3群:砂糖類・菓子類、4群:油脂類、5群:豆類、6群:果実類、7群:緑黄色野菜、8群:その他の野菜・茸類・海草類、9群:調味・嗜好飲料、10群:魚介類、11群:肉類・卵類、12群:乳類、13群:その他の食品、14群:飲料水)に分類し、それぞれの1人1日摂取量をもとに試験地域の食品構成と数量を定め、市場、小売店から購入した各食品について通常行われている調理の方法に準じて調理を行う。調理を行った後、各食品群についてダイオキシン類の分析定量を行い、各食品群ごとのダイオキシン類の1日摂取量を算出し、これらを総和することによりダイオキシン類の1人1日摂取量を求めるもの。

*3:コプラナーPCB(Co-PCB)

PCDD及びPCDFと類似した生理作用を示す一群のPCB類。

*4:TEQ

毒性等量(TEQ:Toxic Equivalents)のことで、ダイオキシン類のそれぞれの異性体の毒性を2,3,7,8-テトラクロロジベンゾ-p-ジオキシン(2,3,7,8-TCDD)に換算して合計したもの。
ダイオキシン類の中で2,3,7,8-TCDDが最も毒性が強いことから、多くの毒性試験がこの化合物単体について行われている。したがってダイオキシンの定量値については、各異性体ごとに設定されたI-TEF(International Toxicity Equivalency Factor, 国際毒性等価係数)を用いて2,3,7,8-TCDDの毒性を1としたときの相対的な量(毒性等量(TEQ))に換算した。


 問い合わせ先 厚生省生活衛生局
  乳肉衛生課
    担 当 桑崎、吉田(内線2473、2477)
  食品保健課
    担 当 池田、井関(内線2446、2451)
    電 話 (代)03-3503-1711



食品中のダイオキシン汚染実態及びトータルダイエットスタディーによる
ダイオキシン摂取量調査研究(平成8年度)


研究班構成:

主任研究者 豊田正武(国立医薬品食品衛生研究所食品部長)
分担研究者 内部博泰((財)日本食品分析センター)
分担研究者 飯田隆雄(福岡県保健環境研究所)
研究協力者 柳俊彦 ((財)日本食品分析センター)

研究要旨

我が国に於けるダイオキシン類等の食品を介した人への曝露状況を把握するため、通常の食品から摂取されるダイオキシン類の量を調査するとともに、個別食品の汚染状況についても調査した。ダイオキシン関連化合物として、ジベンゾジオキシン(PCDD)12種とジベンゾフラン(PCDF)15種、及びコプラナーPCB(Co-PCB)3種に関し、個別食品として魚類3種、肉類3種、牛乳、穀類1種、芋類1種、豆類1種、果実類1種、野菜類6種について汚染実態を調査した。

また3地区で集めたマーケットバスケット方式によるトータルダイエット試料について、ダイオキシン類等を分析し摂取量を求めた。さらにコプラナーPCB3種についても汚染実態と摂取量を調査した。個別食品中ダイオキシン類(PCDD+PCDF)の濃度は、2,3,7,8-テトラクロロジベンゾ-p-ジオキシン(2,3,7,8-TCDD)に換算した値として、魚介類の含量が最も多く0.202〜1.526pgTEQ/g(ppt)、平均0.669pgTEQ/gであった。肉類では牛肉が最も多く、0.226〜0.429pgTEQ/g、平均0.318pgTEQ/gであり、豚肉は0.004〜0.021pgTEQ/g、鶏肉は0.006〜0.009pgTEQ/gであった。また、牛乳中濃度は0.005〜0.008pgTEQ/gであった。野菜類では、ほうれん草の含量が最も多く0.095〜0.281pgTEQ/g、平均0.170pgTEQ/gであった。その他では、人参が0.001〜0.010pgTEQ/g、きゃべつ及びトマトが0.001pgTEQ/g以下、じゃがいもが0.008pgTEQ/g以下、豆類が0.001〜0.045pgTEQ/gであった。米、みかん、大根及び玉葱は、一部のダイオキシン類が検出されたが、2,3,7,8-TCDDに換算した値は0であった。

またトータルダイエットからのダイオキシン類の1日摂取量は22.1〜37.4pgTEQ/人、平均31.4±8.2pgTEQ/人であった。日本人の平均体重を50kgとして、本研究から得られたダイオキシン類について体重kg当たりの1日摂取量に換算すると、平均0.63pg(範囲0.44〜0.75pg)となり、平成8年に厚生省「ダイオキシンのリスクアセスメントに関する研究班(班長:黒川雄二国立医薬品食品衛生研究所安全性生物試験研究センター長)」が提案した耐容1日摂取量(TDI値);10pg/kg/dayより相当低い値であった。総摂取量に対する食品群別摂取割合は、魚介類からが総摂取量の67.5%(21.2pgTEQ/人)と大部分を占め、有色野菜群からが5.7%(1.8pgTEQ/人)、乳・乳製品からが5.2%(1.6pgTEQ/人)、肉・卵類からが5.2%(1.6pgTEQ/人)であり、その他の群からの合計は16.4%のみであった。

研究目的

ダイオキシンについては、急性毒性の他に発癌性、催奇形性等の毒性が報告されていることから、本年そのTDI(耐容1日摂取量)を当面10pgTCDD(TEQ)/kg bw/dayとすることが厚生省により決定されている。ダイオキシン関連化合物による人への主な曝露源は食品であると考えられるが、我が国における食品中のダイオキシン含量を広範に調査した研究は魚介類以外ほとんどない1)、2)。またダイオキシン類について日本人の1日摂取量を調べた研究は、高山等により1991年にトータルダイエットによる報告3)、更に1996年度環境庁が行った陰膳方式による摂取量調査のみであり4)、トータルダイエットによる最近の調査研究はない。これを踏まえ、まずダイオキシン関連化合物による個別食品中の汚染量を明らかにするとともに、1日摂取量を推定することを目的に調査を行った。日本人のダイオキシン関連物質の摂取は特に魚介類由来の摂取が多いことが明らかとなっているので、魚介類を主体に、酪農食品、野菜、果実等についてコプラナーPCBを含むダイオキシン関連化合物レベルを調査した。またマーケットバスケット方式によるトータルダイエット試料について、ダイオキシン関連化合物の含量調査を行い、1日摂取量及び魚介類その他各食品群由来の摂取量を比較した。

研究方法

1.試料

個別食品試料は、3地区にて魚類としてマサバ、ガザミ、マアジ、肉類として牛肉、豚肉、鶏肉、乳類として牛乳、卵、穀類として米、芋類としてジャガイモ、豆類として金時豆とドイツ豆、柑橘類としてミカン、野菜類として大根、人参、タマネギ、キャベツ、ほうれん草、トマトを購入し試料とした。トータルダイエット試料は、約120品目を厚生省の平成5年度国民栄養調査による食品群別摂取量表を基にして、3地区で購入した。実際の食事形態に従い、各食品をそのまままたは調理した後、13群に大別し、混合しホモジナイズし、−40℃で保存したものを分析用試料とした。なお、1群は米・米加工品、2群は米以外の穀類・種実類・芋類、3群は砂糖類・菓子類、4群は油脂類、5群は豆類・豆加工品、6群は果実類、7群は緑黄色野菜、8群は他の野菜・きのこ類・海草類、9群は調味・嗜好飲料、10群は魚介類、11群は肉類・卵類、12群は乳・乳製品、13群はその他の食品(カレールー等)、14群は飲料水(水道水)である。

2.分析方法は従来の方法に従って行った。

(1) 前処理

均一に調製された検体100gを500ml容のトールビーカーにとり,10種類のダイオキシン類添加用内標準物質各0.01μg/mlヘキサン溶液0.1mlを加え、2N水酸化カリウム溶液200ml及びメタノール150mlを加え、時々攪拌しながら室温で一晩放置した。これを1l容分液漏斗に移し、ヘキサン100mlを加え10分間振とうした。静置後、ヘキサン層を分取し、水層にはヘキサン100mlを加え、同じ操作を2回繰り返した。ヘキサン抽出液を合わせ、2%塩化ナトリウム溶液200mlを加えて回転するように緩やかに揺り動かした。静置後、水層をすて、ヘキサン層に再び2%塩化ナトリウム溶液100mlを加え、同じ操作を二度繰り返した。なお水試料は5Lを用いた。
ヘキサン層は無水硫酸ナトリウム20gを詰めた漏斗を通過させて、脱水した後、減圧濃縮器を用いて40度以下で約20mlまで濃縮して前処理液とした.
試料液の調製:前処理液を200ml容の分液漏斗に移し、濃硫酸10mlを加え緩やかに混合した。
静置後、硫酸層を捨てた。この操作を硫酸層の色が消えるまで繰り返した後、ヘキサン層に精製水20ml加え、緩やかに振とうした。静置後、水層を捨てた。更に精製水10mlによる洗浄を2回繰り返した。次いで、ヘキサン層に5%炭酸水素ナトリウム溶液を10ml加え、緩やかに振とうした。静置後、水層を捨て、ヘキサン層を無水硫酸ナトリウム10gを詰めた漏斗に通過させて、脱水した後、減圧濃縮器を用いて40度以下で濃縮して約5mlとした。
ヘキサン濃縮液をシリカゲルカラムに移し、カラム管壁を洗浄後、ヘキサン200mlを流した。
この溶出液を300ml容のナス型フラスコにとり、減圧濃縮器を用いて40度以下で濃縮して約5mlとした。このヘキサン濃縮液をアルミナカラムに移し、カラム管壁をヘキサンで洗浄した。
1%(V/V)ジクロロメタン−ヘキサン溶液130mlを流し、次に60%(V/V)ジクロロメタン-ヘキサン溶液を200ml流し、目的物質を溶出させた。この溶出液を300ml容のナス型フラスコに取り、減圧濃縮器を用いて40度以下で濃縮した。これを少量のヘキサンで、10ml容の濃縮用試験管に移し、窒素気流下で溶媒を留去した。
これを0.1mlのヘキサンに溶解して活性炭カラムに移し、15分間放置後25%(V/V)ジクロロメタン-ヘキサン溶液100mlを流し、次にトルエン200mlを流し目的物質を溶出させた。この溶出液を300ml容のナス型フラスコにとり、減圧濃縮器を用いて40度以下で濃縮した。これを少量のヘキサンで10ml容の濃縮用試験管に移し、窒素気流下で溶媒を留去した。残留物にデカン50μlを加えて溶解し、試料溶液とした。
標準溶液の調製:ダイオキシン類及び内標準物質の各標準溶液をデカンに溶解して、0.02μg/mlのダイオキシン類20物質及びダイオキシン類内標準物質10種の混合溶液を作製し、これをダイオキシン類定量用混合標準溶液とした。また、内標準物質の各標準品をデカンに溶解して、0.01μg/mlのダイオキシン類内標準物質10種の混合溶液を作製し、これを添加用ダイオキシン類内標準物質混合溶液とした。

(2) 定量

定量用混合溶液1μlを、ガスクロマトグラフ高分解能質量分析計に注入して、各塩素数に応じた設定質量数ごとにマスフラグメントグラフィーを行った。得られたマスフラグメントグラムから各塩素数の内標準物質に対する各物質のピーク面積比を求めた。同様にして、試料溶液についてもピーク面積比を求め定量値を算出した。 定量値について、PCDDとPCDFはITEF( International Toxicity Equivalency Factor)を用いて5)、またCo-PCBはAhlborgら(WHO)の値を用いて6)、2,3,7,8-テトラクロロジベンゾ-p-ジオキシン(2、3、7、8-TCDD)に換算して示した。
(3) GC/MS条件
1) 高分解能GC質量分析計VG ANALYTICAL AUTOSPEC、カラムFused Silica SP-2331(30m×0.25mm,0.25μm)及びFused Silica DB-17(30m×0.25mm,0.25μm)、分解能10,000、EI、イオン化電圧30eV、イオン源温度250℃、イオン化電流500μA。
2) GC HP5890 SERIESII、MS Finnigan MAT-95、カラム Sperco社製 SP-2331(60m×0.32mm,0.25μm)、分解能7000〜8000、加速電圧5kV、イオン化電圧45eV。
(4)検出限界
魚肉、食肉及び牛乳以外の個別食品の検出限界は、TCDDとTCDF、PeCDDとPeCDFが0.01ppt、HxCDDとHxCF、HpCDDとHpCDFが0.02ppt、OCDDとOCDFが0.05ppt、Co-PCBが0.01pptであり、魚肉、食肉と牛乳では、ダイオキシン類の4〜6塩素化物が0.1ppt、7〜8塩素化物が0.2pptであり、Co-PCBが1pptであった。一方トータルダイエット試料では1〜9群及び13群が個別試料と同様で、第4群はそれぞれ0.02ppt、0.1ppt、0.2ppt及び0.05pptであった。また、第10〜12群では、ダイオキシン類の4〜6塩素化物が0.1ppt、7〜8塩素化物が0.3pptであり、Co-PCBが1pptであった。

結果及び考察

1 個別食品中含有量

1)魚及び肉類中含有量

表1から3にこれまでの調査結果からダイオキシン含量が多いと推定されているマサバ、ガザミ、マアジ、及び従来データの少ない牛肉、豚肉、鶏肉、牛乳について湿重量当たりのダイオキシン類の濃度と毒性評価結果を示した。また表7にその結果を要約して示した。魚介類試料中のダイオキシン類等については、9試料すべてからダイオキシン類(PCDD+PCDF)とコプラナーPCBを検出した。ダイオキシン類については、魚ではガザミの2,3,7,8,-TCDD当量濃度(pg/g:ppt)が最も高く、3地区から購入したガザミのダイオキシン類の当量濃度は範囲0.527〜1.526ppt、平均値と標準偏差0.925±0.530pptで、マアジは範囲0.308〜0.894ppt、平均0.554±0.304ppt、マサバは範囲0.202〜0.902ppt、平均0.527±0.353pptであった。検出された全ての魚試料(9試料)の平均検出濃度は0.669pptであり、範囲0.202〜1.526pptであった。
コプラナーPCBについては、3種の魚試料から3,3',4,4'-TCB、3,3',4,4',5-PCB、3,3',4,4',5,5'-
HCBのいずれもが検出された。その当量濃度の範囲及び平均値と標準偏差は、マサバが最も高く0.415〜1.856ppt、平均1.308±0.780ppt、ガザミが0.425〜1.252ppt、平均0.809±0.417ppt、マアジが0.512〜1.438ppt、平均0.855±0.508pptであった。検出された全ての魚試料(9試料)の平均検出濃度は0.991pptで、範囲0.415〜1.856pptであった。
本研究における魚肉中のダイオキシン類含有レベルは、最近数年の報告値0.01〜9.5ppt1)、魚の文献値0.3〜0.9ppt8)と比較し、ほぼ類似のレベルにあり、最大でも1.53pptであった。
食肉試料では9試料すべてからダイオキシン類を検出し、コプラナーPCBはすべての牛肉と鶏肉2試料から検出した。ダイオキシン類については、牛肉中の当量濃度が最も高く0.226〜0.429ppt、平均0.318±0.103ppt、豚肉及び鶏肉は少なくそれぞれ0.004〜0.021ppt、平均0.010±0.010ppt及び0.006〜0.009ppt、平均0.008±0.002pptであった。検出された全ての食肉試料(9試料)の平均値は0.112pptで、範囲0.004〜0.429pptであった。本研究における肉試料中のダイオキシン類の含有レベルは、最近の肉類中の報告値0.09〜0.1ppt4)より牛肉でやや高めであったが、イギリスの1992年度の肉・肉製品中の含量0.4〜2.9ppt7)より低い値であった。
コプラナーPCBについては、牛肉から3,3',4,4',5-PCBが微量検出された。牛肉中コプラナーPCBの当量濃度は0.134±0.058pptであった。また鶏肉2試料から3,3'4,4'-TCBが微量検出された。
鶏肉3試料の平均値は0.001±0.0003pptであった。なおコプラナーPCB検出試料(5試料)の平均値は0.081pptで、範囲0.001〜0.200pptであった。
牛乳中のダイオキシン類の含量は、0.005〜0.008pptと低く、平均0.006±0.002pptであった。
コプラナーPCBについては検出限界以下であった。
個別試料中のPCDD、PCDF及びCo-PCB含量を合計した2,3,7,8-TCDD当量濃度については、魚の当量濃度が0.617〜2.778ppt、牛肉が0.326〜0.629pptであり、豚肉が0.021ppt以下、鶏肉及び牛乳の濃度は0.010ppt以下であった。
2)野菜類等中含有量
表4から6に、米、土壌の付着する恐れのある芋類のジャガイモ、根菜類の大根、人参、タマネギ、土壌ダストの付着する恐れのある葉菜であるキャベツ及びほうれん草、トマト、果実のミカン、更に豆類について湿重量当たりの濃度と毒性評価結果を示した。また表7にそれらの結果をまとめて示した。
米からはコプラナーPCBのみ検出され、3試料の平均濃度0.002ppt、範囲0.001〜0.002pptであった。またジャガイモからはダイオキシン類が平均0.003ppt検出され、その範囲は0.001〜0.008pptであった。金時豆2試料及びドイツ豆1試料の豆類からは、ダイオキシン類が3試料全てから平均0.016ppt検出され、範囲0.001〜0.045pptであった。またコプラナーPCBは、2試料から検出され、3試料の平均値は0.006pptで、範囲0.002〜0.015pptであった。
みかんからは1試料からのみ微量のコプラナーPCBが検出され、その量は0.001pptと少なく、可食部はほとんど検出限界以下のレベルと考えられる。根菜と球根類の大根とタマネギからは、それぞれ1試料のみコプラナーPCBが検出され、検出濃度は大根で0.001ppt、タマネギで0.002pptであった。人参からは、全試料からダイオキシン類とコプラナーPCBが検出され、ダイオキシン類の平均濃度は0.004pptで、範囲0.001〜0.010pptで、コプラナーPCBの平均濃度は0.002pptで、範囲0.001〜0.002pptであった。葉菜については、キャベツからは、ダイオキシン類が1試料から検出され、その濃度は0.001pptであった。またコプラナーPCBが全3試料から検出され、平均濃度は0.002pptで、範囲は0.002〜0.003pptであった。また、ほうれん草からは3試料共ダイオキシン類とコプラナーPCBとが検出され、ダイオキシン類の平均値が0.170ppt、範囲0.095〜0.281pptであった。またコプラナーPCBの濃度は平均値が0.018ppt、範囲0.011〜0.027pptであった。本研究における野菜の含量レベルを文献値と比較すると、Nakamura等9)、10)のじゃがいも、キャベツ、大根のダイオキシン類の0.03〜0.13ppt、8種野菜の値0.008〜0.02pptと比べほぼ同程度と考えられた。なお、ほうれん草については比較値がないことから、今後さらに検討が必要である。

2 トータルダイエット

本研究は、通常の食事から摂取されるダイオキシン類の量を把握するために行ったものである。
ダイオキシン類について日本人の1日摂取量を調べた研究は、これまでに多くなく、また、1996年度環境庁が行った調査は陰膳方式による摂取量調査のみであることから、今回は、試験的に3地区を選出して、1日摂取量を推定することを目的に調査を行った。

1)トータルダイエット試料中含有量

表8、9、10に関東地区、関西地区及び九州地区からのトータルダイエット試料の14食品群中のダイオキシン類とコプラナーPCBの濃度と当量濃度及びそれぞれの総摂取量を示した。
PCDDsは、高塩素化体になるほど検出頻度、濃度ともに高くなる傾向が認められた。PCDFsについては、6、9及び14群以外の群の試料から検出され、4から8塩素体まで広範な濃度分布を示した。またコプラナーPCB濃度は、いずれの試料でも低塩素化体ほど高い傾向を示した。
食品群別比較では、最強の毒性を有する2,3,7,8-TCDDは、2群(米以外の穀類、芋類)、3群(菓子類)、4群(油脂類)及び13群(加工食品)から検出され、4群の0.022pptが最高の濃度を示した。PCDDsとPCDFsの合計濃度で比較すると、油脂含量の多い10群が6.6pptと最も多く、次いで4群が5.56pptとなり、油脂含量の多い食品群で高くなっている。コプラナーPCB濃度は、10群の魚介で11〜14pptと最も高く、全群からの合計濃度の72〜84%、平均で約78.7%とその大部分を占めている。
全食品群に占める総PCDDs、総PCDFsと総Co-PCB濃度の組成比率はCo-PCB》PCDDs〉PCDFsであったが、TEQ換算濃度での組成比率はCo-PCB〉PCDFs〉PCDDsとなった。この原因は、PCDDsの種類のうち毒性の低いOCDDがその半分以上を占めているのに対し、PCDFsでは毒性の高い2,3,7,8-TCDFや、2,3,4,7,8-PCDF等の割合が高いことによる。
トータルダイエットの第10群の魚介類、11群の肉・卵類、12群の乳・乳製品中のダイオキシン類については、2カ所以上の購入地区から検出されたダイオキシンは、魚介類から1,3,6,8-TCDD、1,2,3,4,6,7,8-HCDD、OctaCDD、2,3,7,8-TCDF、2,3,4,7,8-PCDF、1,2,3,4,6,7,8-HCDFであり、肉・卵類からが1,3,6,8-TCDD、1,2,3,4,6,7,8-HCDD、OctaCDD、1,2,3,4,6,7,8-HCDFであり、乳・乳製品の群からが1,2,3,4,6,7,8-HCDD、OctaCDD、1,2,3,4,6,7,8-HCDFであった。
2)トータルダイエット試料からの摂取量
表11と12にダイオキシン類とコプラナーPCBについて、3地区14群からの摂取量データと各群からの摂取割合を示した。表13には両者の合計摂取量値を示した。
トータルダイエットからのダイオキシン類の総摂取量は平均31.4±8.2pgTEQ/人/day、範囲22.1〜37.4pgTEQ/人/dayであった。日本人の平均体重を50kgとして、本研究から得られたダイオキシン類について体重kg当たりの1日摂取量に換算すると、平均0.63pg、範囲0.44〜0.75pgとなり、厚生省のTDI値の10pg/kg/dayより相当低い値であった。
なお、関東地区、関西地区、九州地区間での摂取量差の有無については、今回のデータでは明らかでなく、更にデータを積み重ねた後に評価すべきである。
各群別のダイオキシン類の摂取量は、多い順に10群(魚介類)が21.2±9.1pgTEQ/人/dayで総摂取量の67.5%と約7割を占め、次いで7群(緑黄色野菜)が1.8±1.4pgTEQ/人/dayで全体の5.7%、12群の乳・乳製品が1.6±0.5pgTEQ/人/dayで全体の5.2%、11群(肉・卵)が1.6±0.4pgTEQ/人/dayで全体の5.0%、2群(雑穀・芋類)が1.4±1.3pgTEQ/人/dayで全体の4.4%を占めた。
我が国で魚介を極端に多く摂取する人のリスクについて考察すると、魚介を通常の2倍摂取すると仮定した場合、魚介由来のダイオキシン類の摂取量は倍の42.4pgとなり、その総摂取量は52.6pgとなる。従って、体重kg当たりの1日摂取量は1.1pgと計算される。よって魚介の極端な摂取条件下でもダイオキシン類の摂取レベルはTDIの1/9に相当するのみであった。
一方トータルダイエットからのコプラナーPCBについては、総摂取量が平均48.4pgTEQ/人/dayであった。また各群別の摂取量は、多い順に10群(魚介)が42.9±15.0pgTEQ/人/dayで総摂取量の88.8%と約9割を占め、他の群からの摂取はいずれも0.9pgTEQ/人/day以下と少なく全体の1.8%以下であった。

謝辞

本研究は、平成8年度厚生省厚生科学研究費及び健康地球研究計画推進経費により行った。
なお分析用食品試料の入手とトータルダイエット試料の作製にご協力願いました3地区の研究機関の方々に感謝いたします。

参考文献

1)厚生省生活衛生局:食品中のダイオキシン汚染実態調査研究(平成4年度〜平成8年度)
2)高山幸司ら:日本の沿岸魚及び市販魚中のPCDDs,PCDFs及びCoplaner PCBs、衛生化学、37、125-13 1(1991)
3)高山幸司ら:日本における食事経由のダイオキシン関連物質の摂取量、食衛誌、32、525-532(1991)
4)環境庁:ダイオキシンリスク評価検討会 参考資料1、食物経由のダイオキシン類曝露量調査(1995)
5)Kurz,F.W.et al.:Chemosphere,17 N2-7(1988)
6)Ahlborg,U.G.et al.:Chemosphere,28,1049-1067(1994)
7)MAFF,Food surveillance information sheet,No.105(1997)
8)松田宗明:環境科学会、1996年会(東京)
9)Nakamura,M.et.al.:Organohalogen Compounds,20,103-106(1994)
10) Nakamura,M.et.al.:Organohalogen Compounds,24,497-500(1995)


表1〜表13


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