ダイオキシン、火葬場からも火葬も環境配慮

火葬場からもダイオキシンは出ている。人体だけでなく、棺(ひつぎ)や多様化する副葬品が発生源だ。今のところ、排出量はごくわずかだが、高齢化が進んで死者が増えると、バカにできない数字になる。厚生省はこのほど削減対策のためのガイドラインを策定。段ボール製の棺や木工の副葬品模型を作る業者も現れた。「地球にやさしい火葬」の周辺を調べてみた。(伊藤 景子)

○副葬品などが発生源に 増加警戒し抑制へ指針

 厚生省によると、国内には5142の火葬場があるが、1998年度中に火葬の実績があるのは1558施設。「残りは過疎地などにあり、事実上、使われていない施設ではないか」(厚生省)

 「人の遺体はごみではない」との立場から、火葬場は大気汚染防止法やダイオキシン類対策特別措置法の対象になっていない。しかし、厚生省の委託を受けて、京都大学大学院工学研究科が97年度から2年かけて、計22の火葬場の実態調査をした。

 その結果、排ガス中のダイオキシン濃度は最も高い施設で1立方メートル中24ナノグラム(ナノは10億分の1)。ダイオキシン類対策特別措置法のごみ焼却炉(容量50キロ−200キロ)の排出規制値、10ナノグラム(既設炉)は超えているが、閉鎖命令の出る80よりは低かった。最も低い施設は0.064ナノグラムだった。

 「意外に低い数字」と調査した高岡昌輝助手は見る。法規制の一切ない火葬場は、ごみ焼却場に比べて設備の近代化が遅れている。ダイオキシンの分解に有効な、高温での連続燃焼をするわけにもいかない。人骨が変形してしまうからだ。棺に入れる副葬品やドライアイス、果物類もダイオキシン発生につながる。

 「大半の火葬場がにおい対策のために、煙を高温で燃やす再燃焼室を設置しているのが、ダイオキシンの分解にも役立ったようだ」と高岡助手。

 日本の火葬率は約99%。97年度には約97万体がだびに付され、その結果、全国で計1.8−3.8グラムのダイオキシンが大気中に排出された。これはごみ焼却場から出るダイオキシン総量の0.1−0.2%。わずかな数字だが、今後高齢化が進み、2036年に日本の死亡人口は約176万人とピークに達する。火葬炉の設備が現状のままだと、ダイオキシンの発生量は3.2−6.9グラム。規制の進むごみ焼却場の排出量の35%近く、「バカにはできない数字」(高岡助手)となる。

 厚生省は調査をもとに今年3月、年50件以上の火葬をする火葬場を対象にガイドラインを作り、ダイオキシン濃度を、これから新設する炉は排ガス1立方メートル中1ナノグラム、既設の炉は5ナノグラム以下と、ごみ焼却場より厳しい指針値を設けた。さらに、再燃焼室や効率の高い集じん器の設置を求め、副葬品も「遺族の理解を得て制限することが望ましい」としている。

 ○環境配慮の用品も 葬儀社コスト課題

 業界の動きも活発だ。前橋市の木工製品メーカー、山岸物産は四年前から副葬品の模型を木で作っている。時計、眼鏡、ゲートボールのクラブ、ゴルフのパター、カラオケマイクなど10種類余り。ケヤキやナラ、ヒノキ製だ。山岸政好社長(62)が火葬場に勤める人から「金属や瀬戸物が焼け残り、処分に困っている」「プラスチックの副葬品が増え、ダイオキシンが心配だ」と聞き、思いついた。

 木製副葬品は数珠の1500円から地蔵菩薩(じぞうぼさつ)の9600円まで。年間70万−100万円を売り上げている。これからは、絵本やおもちゃ、釣りざお、楽器、装身具なども作りたいという。

 横浜市のギャラリー葬送博物館主宰、出口明子さんは3年前から米国製の段ボール製の棺を紹介している。日本製の多くはベニヤ板の張り合わせか、木のチップを固めたもので、接着剤や塗料がダイオキシンの発生源になる。段ボール製の棺にはこれらは使われていない。7万8千−15万8千円。

 住友商事(大阪市)が扱っているのは棺の内装の布や仏衣。燃やしてもダイオキシンの出ない木綿やレーヨン製だ。現状は九割がポリエステル。去年四月から農協を通じて販売しているが、多くの葬儀社は1割ほど値段の安いポリエステルのものを選ぶという。

 日本の葬儀は葬儀社が丸抱えで取り仕切るケースが大半なので、「環境にやさしい火葬用品」が開発されても、消費者が直接選びにくいのが難点だ。

                          <2000年8月7日朝日新聞紙面より>


山岸正好さんが作っている木製の副葬品。眼鏡、時計、つえ、地蔵菩薩、印ろうがよく売れる

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