減量への施策急務
ごみをどうする(上)

あふれるごみをどうしたらいいか――。20世紀は大量生産、大量消費、そして大量廃棄の社会だった。この社会を、資源を有効に使う「循環型」に変えていくことがこれからの日本の課題だ。しかし、ごみ減量やリサイクルの動きは鈍い。処分場の新規設置も困難を極めている。生産、消費、廃棄という流れの上流、中流を大きく変えずに、下流の出口の確保ばかりに気をとられていては、社会は変えられない。
(くらし編集部・杉本裕明)

◇情報公開し処分場計画 住民合意形成の場作れ◇

 これまで国も自治体も、あふれるごみをどう処理するかという点にばかり目を奪われてきた。

 1970年に制定された廃棄物処理法は、これまで8回改正されたが、ごみがあふれる現状への対策に追われるように処理施設の設置に重点が置かれ、ごみを減量する具体策にはほとんど手が付けられなかった。

●処理施設の紛争

 その処理施設も、新規の設置をめぐっては、各地で紛争が絶えない。廃棄物処分場問題全国ネットワーク(事務局・東京)の調べでは、処理施設の紛争は全国で650件。90年代半ばのピーク時と比べても沈静化の兆しはない。都道府県への最終処分場設置の申請件数は、以前は年に100―200件あったのが98年以降は3分の1以下に激減。「造れるかどうかわからないので慎重にならざるをえない」と全国産業廃棄物連合会は心配する。

 処分場は「迷惑施設」の典型だ。背景には近隣住民への事前の情報公開の不足や、事故があった場合の処理のまずさがある。

 例えば国は、97年の法改正で住民が処理施設の排水濃度などを記した維持管理記録を閲覧できるようにした。しかし、閲覧できるのは近くのごく一部の住民に限られ、肝心の施設がどの企業からどのようなごみを受け入れているのかは公開の対象外とされている。三重県など一部の県は、公開の対象を大幅に広げているが、少数に過ぎない。

 福井県敦賀市の産廃処分場では、許可量の13倍のごみを埋め立てていたことが発覚したが、詳細な情報を求めた市に、県は「業者のプライバシーを侵害する」と拒否した。厚生省も過去にごみ処理に関して都道府県に出した多くの通知すら公表していない。

 自治体が重視してきたのは、情報公開よりも近隣住民の「同意」だ。都道府県は、処理施設の許認可にあたって、近隣住民や地元市町村の同意を条件にしてきた。これは紛争防止に一定の効果を上げる一方、同意のために大金が動くなど、不透明な部分を生む素地にもなった。

 そこで厚生省は97年の法改正で、県への申請時に業者にミニアセスメントを義務づけ、知事は市町村長や専門家の意見を聞いて判断するとして、県に同意の取り付けをやめるよう求めた。多くの県で同意条項がなくなったが、口頭で同意を取るよう業者を指導している県も多い。ある県は「同意なしに許可すれば紛争が起きかねない」と話す。

●後戻りは不可能

 では、住民の合意を得るための努力は行われているか。

 住民が建設計画を知るのは、業者が土地を確保し、後戻りできない段階になってからだ。法律にも、早い段階で住民が情報を得たり、計画に参加したりする仕組みはない。一方業者側は「資金投入後に反対されても後戻りできない」(大手業者)と主張する。

 97年に岐阜県御嵩(みたけ)町で産廃処分場設置の是非を問うて実施された住民投票は、住民に情報を提供し、本当に必要かどうかを判断、意思決定した点で画期的だった。その後、住民投票は宮城県白石市、岡山県吉永町、千葉県海上町などに広がり、住民はいずれも「産廃NO!」の意思を明確にした。だが、「では、施設の設置はどうあるべきか」という問いに、国や県は十分こたえていない。

 柳川喜郎・御嵩町長は「国や県が科学的に検討し、いろいろな候補地を比較考量すべきだ。その際に、情報を全面公開することが必要だ」と話す。

 長野県阿智村は住民の「合意形成」に取り組んだ。4年前、県事業団の産廃処分場計画に地権者は賛成、住民団体は「川に近すぎる」と反対。村は、専門家と反対派も交えた村民らで「社会環境アセスメント委員会」を作り、公開で審議した。

 「このままでは県内の処分場が満杯になる」。事業団の説明に委員らは「大量廃棄社会を前提にしている。根拠が薄い」と批判。2年間、17回の議論で、埋め立て量の縮小▽ドイツ並みの安全対策を確保▽搬入されるごみの経路を示した管理伝票を公開▽村と住民が処分場の運営に参加する――などを事業団に承諾させた。昨春、委員会の報告書を全村民に配布、説明会を開いて了解を求めた。

 岡庭一雄村長は「第三者機関の委員会のおかげで県と対等に議論できた。事業団と協定を結び、全国のモデルケースにしたい」と話す。「最初から処分場ありき」との批判もあるが、村の姿勢は、土地収用法で反対派を排除した都や日の出町の対極にある。

 厚生省は、10年後に産廃埋め立て量を半減するとの目標を立てているが、上流や中流をどうするかの具体的な政策は乏しい。これでは住民の信頼は得られない。

 力の弱い市町村がしわ寄せを受けるのでは困る。国や都道府県は、廃棄物の発生を将来ここまで減らすという削減計画を作り、地元自治体や住民の参加のもとで処分場の配置計画を進めるべきだ。その際に求められるのは、徹底した情報公開だ。


<2000年10月31日朝日新聞紙面より>
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