脱・焼却の戦略示せ
ごみをどうする(中)

日本のごみ処理は「焼却」が主流だ。家庭や事業所から出る一般廃棄物は年間約5120万トン。このうち約8割が、全国に約1800ある焼却炉で燃やされている。ドイツやフランスなど欧州の多くの国が40%以下なのに比べ、かなりの焼却大国だ。一方、「循環型社会」を目指してリサイクルの掛け声も高い。燃やすのか、リサイクルするのか。具体的な政策や計画が示されないまま、現場の自治体の混迷は続く。(くらし編集部・伊藤景子、科学部・安田朋起)

 焼却主義は今も拡大の方向だ。2002年12月に自治体の焼却炉から出るダイオキシンの規制が強化される。これに合わせて、厚生省は都道府県に「ごみ処理の広域化について」という通達を出している。小さな炉の自治体が合同で「なるべく広域で、高温、連続の処理能力100トン以上の大きな焼却炉を作るように」との内容だ。

 ダイオキシン対策のためには、ごみを高温で24時間連続して燃やせる焼却炉が必要だ。しかし、まだ小さな炉で1日数時間の焼却しかしていない自治体もあり、ごみ量の3割近くがこんな炉で燃やされているからだ。

 一方、焼却とは反対の「リサイクル」は、バブル期に全国でごみがあふれたのを機に、国や自治体の合言葉のようになった。今年6月には循環型社会形成推進基本法を始め、建設資材リサイクル法など「循環」「リサイクル」をうたう法律が6つ成立・改正された。

 ごみはどんどん燃やせ、という基本路線が変わらないまま、一方では流行のリサイクルの大合唱だ。慶応大学の細田衛士教授は「支離滅裂で、混乱している。焼却とリサイクルをうまく組み合わせ、ごみをどうするかという総合的な戦略がない」と指摘する。

 ごみ行政の担当は厚生省、物のリサイクルは通産省という縦割り行政の結果でもある。現場でのごみ処理は市町村だが、リサイクルの音頭を取るのは国だ。

 ごみ処理のグランドデザインを描くはずの循環型社会基本法は廃棄物について、発生抑制、再使用、リサイクル、適正処理(焼却など)という優先順位をつけてはいる。しかし、どんなごみをどう処理するのか、具体的な施策や計画はまだ示されていないため、現場を抱える自治体は、焼却とリサイクルとの間で引き裂かれている。

■夢の焼却炉

 日々、ごみに向き合う市町村が熱い視線を向けているのがガス化溶融炉だ。現在の焼却炉の温度が850―900度なのに対し、ガス化溶融炉は約1300度の超高温で、生ごみなどの「可燃ごみ」だけでなく、プラスチックや陶器、果ては自転車、家電製品まで燃やすことができる。

 最大の売りは、焼却灰がほとんど出ないこと。一般焼却炉ではごみを完全に燃やしても重さで15%ほどの灰が残り、最終処分場に埋め立てねばならない。処分場の新規設置は至難の業で、今ある処分場をいかに長く使うかが自治体の大きな課題だ。溶融炉から出るのは道路の基盤材などに利用可能なスラグ。それ以外の飛灰と残さはごくわずかだ。最終処分場が灰でじわじわ埋まりつつある自治体に、ガス化溶融炉は「ごみ問題の決め手」「夢の焼却炉」と映る。

 福岡県筑後市など3市5町で作る「八女西部広域事務組合」はこの4月、ガス化溶融炉の最新型「キルン式熱分解・燃焼溶融炉」を、全国で初めて導入した。110トンの溶融炉2基で総工費は約100億円。完成以来、全国の市町村のごみ担当者が1万人近く見学に押し寄せた。

 溶融炉メーカーなどの調べによれば、ダイオキシン対策で焼却炉の建て替えを計画している自治体や事務組合は約50。その半分がガス化溶融炉を導入する予定だという。

 「ガス化溶融炉って何なんだ!」の著者で、フリーライターの津川敬さんは「超高温での燃焼はまだ安全性が確立されていない技術。安易な導入は危険」と警告するが、ごみ処理の焼却路線が変わらない以上、「溶融炉にとびつく自治体はもっと増える」と見る。

 一方、リサイクルの現場はどうか。今年完全施行された容器包装リサイクル法はプラスチックをリサイクルしようというのが眼目だ。しかし、ペットボトルは生産量に対して受け皿が少な過ぎる。自治体や住民の手間がかかるため、それ以外のプラスチックは分別回収自体が進まない。

 リサイクルといっても、主流は溶鉱炉の還元剤として使う方法で、コークスの代わりに吹き込む。高炉1基あたり最大で年60万トンの受け入れ能力があり、地球温暖化を防ぐ効果もあるとされている。ただ、この方法ではプラスチックは1度使ったら燃えてなくなる。プラスチックを再び製品化する「マテリアルリサイクル」の方法は、コストや手間がさらにかかる。

■自治体の模索

 「脱焼却・脱埋め立て」の基本計画を住民参加で作った東京都東村山市、環境都市を目指して20を超えるごみ分別に取り組む熊本県水俣市、最終処分場を失った結果、大都市として初めて容器包装リサイクル法の完全実施に踏みきった名古屋市など、国に先駆けて循環型社会への取り組みをする自治体がある。「ごみ処理の基本である廃棄物処理法が旧態依然で、現場の実態に追い付いていない」との声が自治体に渦巻いている。

 細田教授は「何を燃やし、何をリサイクルに回すと、どれだけコストがかかり、どれだけ環境への負荷があるか。すべての情報を公開して両方をきちんと位置づけるべきだ」と主張する。ごみの発生自体を減らす「循環型社会」作りのためにそれが急務ではないだろうか。


<2000年11月1日朝日新聞紙面より>

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