燃やしちゃいけないはずが…
廃プラスチック「焼却派」優勢に

有明海を臨む佐賀市廃棄物最終処分場。プラスチックごみが占拠する面積は1万2000平方メートルにおよぶ
=佐賀市嘉瀬町で

 
 プラスチックを燃やしてはいけない。猛毒のダイオキシンなどが発生するからだ。長い間、それが「常識」だと思い込んでいた。しかし、ごみ処理の現場では、プラスチックの焼却が不燃処理よりいつの間にか優勢になっている。高温で燃やせばダイオキシンは発生しにくいという主張が受け入れられつつあるためだ。だが、燃やしてしまえば終わりという「ごみ観」は、根付き始めた分別意識に水を差すことにもなる。(矢崎雅俊、大野良祐)

 岡山市で今年8月から稼働し始める高熱燃焼の新しい焼却炉では、ペットボトルを除く廃プラスチックをすべて可燃ごみとして焼却する。「炉はダイオキシン規制を十分クリアできる。炉の性能が追いつけば、埋め立て処分場への負担を軽くするためにも、焼いて灰にした方が理にかなう」と担当者は話す。

 全国都市清掃会議がまとめた1997年度の全国調査によると、廃プラスチックを可燃ごみとしている自治体は57%、不燃ごみ扱いは42%。10年ほどで可燃派と不燃派は逆転した。

 くらし編集部は各都道府県の県庁所在地に、廃プラスチックの収集・処分の状況を聞いた。不燃ごみとして集めているところが12カ所、可燃ごみが9カ所、もともと可燃・不燃の区別がないところが5カ所など、対応は多様だった。ダイオキシン対策ができるなら、処分場はひっ迫しているし、減容化のために燃やす――との流れが浮かぶ。

         ◇

 東京23区はプラスチック不燃派の代表格とされてきた。しかし、ここでも実際は、廃プラスチックの約半分が燃やされている。

 東京都は74年、炉を傷めたり、塩化水素など有害物質を発生させたりする「適正処理困難物」としてプラスチックを分別収集・埋め立て処理すると決めた。だが、レジ袋など不燃扱いのごみが可燃ごみにまざり分別がいい加減だったり、他の素材と分けられなかったりで、プラスチックごみの4割が、不燃ごみではなく可燃ごみに出されている。さらに、不燃ごみに出されたプラスチックの2割を「不燃ごみ専用の焼却施設」である大田第2清掃工場で燃やし、重さで7−10分の1、容積で最大40分の1に減らしてから埋めている。

 東京23区清掃1部事務組合は「現在も、炉の発熱量の設定が低く、全工場でプラスチックを焼却できる状況にはない」との見解だ。しかし「プラスチックを燃やしても問題ない時期にきたが、プラスチックは有害だという概念を払しょくできず、政策転換できないでいる」と話す清掃関係者もいる。

         ◇

 佐賀市の埋め立て処分場の一角に、9000トンを超える廃プラスチックが「保管」されている。燃やすに燃やせず、埋めるに埋められないためだ。

 佐賀市は91年、ごみの減量を目指して可燃、不燃ごみに加えて「プラスチック系ごみ」の分別収集に踏み切った。これが保管されている。家庭からのごみ排出量が増え、なかでもプラスチック類が急増し、燃焼カロリーを上げて焼却炉が傷み始めたためだ。埋める処分場も余裕がなくなりつつあった。

 ダイオキシン対策が施され、プラスチックの高熱燃焼にも十分耐えられる新しい焼却炉ができあがる予定の2003年まで山は積み上がっていく。

 ○焼却やめたら発生量減った 神奈川県大磯町

 一方、ダイオキシン対策の強化で、あらためて不燃を選択する動きもある。

 神奈川県大磯町では97年から、それまで可燃扱いだった廃プラスチックを「リサイクルできないプラスチック」として集めている。この年、町内の焼却場にある2つの炉の1つから排ガス1立方メートルあたり590ナノグラム(1ナノグラムは10億分の1グラム)ものダイオキシンを検出。「緊急対策」で廃プラスチックの分別を始めた。とたんに63ナノグラムに減った。

 ダイオキシン発生とプラスチックとの関係は学会でも定説はない。担当者は「成果はあったが、どの程度、プラスチックの分別によるものかはわからない」という。燃やさないことにした廃プラスチックを含むごみは、県外に運んでいる。

         ◇

 廃棄物学会会長の田中勝・岡山大教授は「プラスチックが燃えないと言う人はいない。技術的にはダイオキシンを排出基準以下におさえる対策もできる。埋め立てを最小限にするなら、焼却炉は廃プラスチックも対象にし、燃やしてエネルギーを回収すべきだ」と主張する。一方、国立環境研究所の酒井伸一・廃棄物研究部長は「循環型社会を追求するには、まず分けることから始めないといけない。分けないことにはリサイクルなどの技術向上もない。一次資源依存型のワンウエー社会から脱却するには、分別のドアを閉めるべきではない」と指摘する。

 ■プラスチックごみへの県庁所在地の対応
      分別  処理  札幌市  容リ  埋め立て    汚れがひどいものは3月まで可燃  青森市  可燃  焼却      ダイオキシン対策ができており焼却  盛岡市  両方  焼却と埋め立て 旧市内と合併地区で分別は異なる  仙台市  混合  焼却      2002年度中に容器包装の収集を実施  秋田市  両方  焼却と埋め立て 台所からのものは衛生面で可燃扱い  山形市  別分別 埋め立て    再商品化できるものを手作業で分別  福島市  両方  焼却      軟質プラは破砕しにくいために分別  水戸市  可燃  焼却      再資源化ルートが未整備なので焼却  宇都宮市 可燃  焼却      燃やしても有害物質は出ないため  前橋市  不燃  埋め立て    炉が傷むためで、再商品化も検討  浦和市  両方  原則焼却    不燃が一番だが処分場延命のため  千葉市  両方  原則焼却    硬質プラは塩ビ系が多く不燃扱い  東京区部 不燃  原則埋め立て  焼却に全工場では対応できていない  横浜市  混合  焼却      ダイオキシン対策はでき、減量にも  新潟市  別分別 埋め立てと再資源化 従来油化。高炉原料にも  富山市  両方  原則焼却    10月から容器包装収集を市内に拡大  金沢市  不燃  埋め立て    減量のため4月から容器包装を収集  福井市  不燃  原則焼却    市内の施設では燃やせず、他で処理  甲府市  可燃  焼却      処分場の設置困難で減量化のため  長野市  両方  原則焼却    2003年度から容器の収集を全域で  岐阜市  混合  焼却      分別すべきだが基盤が未整備  静岡市  可燃  焼却      ダイオキシン対策ができているため  名古屋市 容リ  原則埋め立て  処分場延命のためで、ごみは減少  津市   別分別 埋め立て    疑わしければ燃やさない住民合意  大津市  可燃  焼却      処分場への負担減のため  京都市  混合  焼却      ダイオキシン対策あり処分場ひっ迫  大阪市  混合  焼却      埋め立てても分解せず、炉も安全  神戸市  不燃  埋め立て    他の自治体と違い、処分場に余裕  奈良市  容リ  埋め立て    処分場対策とリサイクル推進で  和歌山市 可燃  焼却      市内に最終処分場がないため  鳥取市  別分別 埋め立て    食品トレーだけ回収、あとは処分  松江市  不燃  埋め立て    埋め立て前に熱で棒状にして容積減  岡山市  両方  焼却と埋め立て 8月に新炉を建設して全量焼却へ  広島市  不燃  埋め立て    炉の傷み防止と有害ガス対策で  山口市  両方  焼却と埋め立て 食品系プラは可燃、その他は不燃に  徳島市  不燃  埋め立て    有害ガス防止と処分場延命のため  高松市  容リ  埋め立て    容リ法実施後、ごみは減少し始めた  松山市  別分別 焼却      ペット、その他容器包装は再資源化  高知市  別分別 原則埋め立て  硬いものや長いもの以外は別に収集  福岡市  可燃  焼却      処分場延命のためで容リ法は困難  佐賀市  別分別 保管      埋め立て地ひっ迫と焼却炉の傷みで  長崎市  不燃  埋め立て    ダイオキシンなどの有害ガス防止  熊本市  可燃  焼却      ダイオキシン対策済みのため  宮崎市  別分別 埋め立て    ペット、トレーなどは分別収集  鹿児島市 不燃  埋め立て    来年から容リ法の完全実施を予定  大分市  不燃  原則埋め立て  軽いプラは破砕後に焼却  那覇市  不燃  埋め立て    処分場のある隣接町民の健康配慮で

 ※ペットボトルなど資源回収分を除く廃プラスチックの分別・処理の方法をまとめた。「容リ」は容器包装リサイクル法に基づくプラスチック容器包装の収集で、その場合の焼却や埋め立てなどは容器包装以外の処理方法。「別分別」は容リ法対応以外でプラのみ収集。「両方」は「硬いプラは不燃で軟らかいプラは可燃」など可燃・不燃にわたるケース。「混合」は可燃・不燃の区別なし

<2001年2月26日朝日新聞より>


Back