たき火どうしよう
アウトドアの人気者、ダイオキシン飛び火
ぱちぱち燃える赤い火、顔に感じる熱、けむりのにおい。たき火には人をと りこにする独特の魅力がある。キャンプでも人気の行事だ。人類は150万年 前からたき火をしていたと言われ、文明の発達にも火は不可欠だった。だが最 近は焼却炉で生じるダイオキシン類への憂慮が「飛び火」して、昔ながらのた き火まで気にする風潮が出ている。たき火の今を調べてみました。(添田孝 史) ○楽しみ焼きイモ、少〜し遠慮気味 東京都渋谷区の区立恵比寿保育園では、焼き芋会が毎年11月の恒例行事 だ。園児が近くの神社などで落ち葉を集め、自分たちで掘ったサツマイモを焼 く。園長の鴻巣萬里子さんは「最近の子は火を見る機会が少なく、とても楽し みなようです。火の色、離れていても感じる熱さ、木の葉が舞い上がる様子 に、歓声をあげて喜びます」という。 煙が迷惑にならないように、近所に張り紙で知らせたり、消防署に連絡した りと手間はかかる。最近はこれにダイオキシンの心配も加わり、昨年4月、区 役所に相談した。 渋谷区は昨年9月、23区で初めて家庭用小型焼却炉を全面禁止する条例を 作るなど、ダイオキシン類対策には厳しい。環境保全課は「たき火はなるべく やめてほしい」、保育課は「葉っぱが主だし、子供も楽しみにしている」との 立場。結局、「年1回ぐらいならいいだろう」との結論に落ち着いた。今も2 3の保育園のうち、14園で焼き芋会を続けている。 ○葉の塩素が燃えて発生 ダイオキシンは塩素を含む物を比較的低温で燃やした時に出やすい。木の葉 にも塩素は含まれるから、落ち葉たきでも微量のダイオキシンは出る。東京都 環境科学研究所が家庭用の小型焼却炉で調べた結果を今年2月に発表したが、 それによれば、比較的塩素含有量の多いケヤキの枯れ葉を燃やすと、煙中のダ イオキシン類濃度は最新のゴミ焼却炉の約220倍になり、1グラムのケヤキ を燃やした煙から総量で0.17ナノグラム(ナノは10億分の1)のダイオ キシンが検出された。 ただし、塩化ビニルなどの煙に比べればきわめて微量だ。ケヤキのダイオキ シンは同量の塩ビを燃やした場合の約800分の1、杉の材木を燃やしたガス は、塩ビの7万分の1以下だった。また、発生量は葉の種類によっても違う。 スダジイはケヤキの10分の1以下、シラカシは20分の1以下だ。 ○環境庁「大丈夫ともダメとも」 「たき火のダイオキシンはどの程度危険なのか」。環境庁の環境リスク評価 室には時々こんな質問が来るが、「積極的に大丈夫とも言えないし、だめとも 言えない」と歯切れが悪い。 東京都環境局環境改善部の中村豊副参事は「もっと大口の排出があるのだか ら、たき火のような枝葉にあまり神経質になるべきではないという考え方と、 少しでも出るならやめた方がいいという考え方がある。たき火には文化的な面 もあるし、すっきりした答えを出すのは難しい」と話す。 今国会に提出されている廃棄物処理法改正案では、野外で廃棄物を焼くこと は原則として禁止。だが、正月のどんど焼きや京都の大文字焼きなど宗教上の 行事や、稲わら焼き、家庭でのたき火など、影響の小さいものは除外されてい る。 ○森の手入れや環境教育にも たき火を環境教育の手段として見直す動きも出ている。神戸市、神奈川県厚 木市、松江市などで森作り活動をしている市民団体の集まり「ばあぴ連」は、 たき火でピザを焼くなどのプログラムで、子どもたちの関心を集めている。1 998年には「窯焼きピザは薪をくべて」(創森社)という本も出版した。 ねらいは荒れ放題の里山の現状に興味を持つこと。森の手入れのために薪を 集め、たき火をする。 ばあぴ連事務局の秦誠さんは、「石油など地下資源を燃やすのに比べたら、 昔からの循環型資源である薪の方が、安全だと思いませんか」と言う。 ◆かがみ込んで手かざすサイズ 塩ビなどまぜて焼くのは厳禁 ダイオキシンだけでなく、大きなたき火は自然に悪影響を及ぼすことがあ る。日本レクリエーション協会は、(1)夜行性の野生動物をおびえさせ、彼 らの生活を乱す(2)地面で直接火をたくと、草や地表にすむ生き物を焼いて しまう(3)たき火の上方にある樹木にダメージを与える、などを指摘する。 ネイティブ・アメリカンに伝えられるという「たき火の大きさは、それを囲 む者がかがみ込んで手をかざすぐらいがちょうどいい」「翌朝には跡形もなく たき火をかたづける」という姿勢が参考になりそうだ。 東京都の調べでは、枯れ葉、紙、木材だけを燃やす時に比べると、塩化ビニ ルが1%でも交じるとダイオキシン排出量は2けた増える。交ぜて焼くのは厳 禁だ。 <2000年5月1日朝日新聞紙面より> |