松葉で見えた、ダイオキシン

汚染の調査に4万人


 東京湾を中心とした首都圏の松葉から検出されたダイオキシン類の濃度マップ。数値は松葉1グラムあたりの毒性等量=99年度調査をもとに環境総合研究所が作成

 ダイオキシン類による大気汚染を松葉で調べる市民らの活動が、成果を上げている。調査データをもとに濃度マップをつくったら、「目に見えない汚染」の広がりが見えてきた。環境省も「ダイオキシン問題を市民が身近に考えるきっかけになる」と評価している。(山本智之)

 なぜ松葉なのか。

 「ダイオキシン類は脂肪に溶けやすい性質がある。松葉は、ほかの樹木の葉に比べて脂肪分が多く、蓄積しやすい」と摂南大の宮田秀明教授(環境科学)は説明する。

 大気中のダイオキシン類は、葉の表面にある細かな気孔から取り込まれる。調査に使うのは原則としてクロマツ。公園や庭木を含めれば、ほぼ全国に生えている。

 葉の寿命は2年余りと長いので、その地域で続いている汚染の状況をつかめる。

 ●採取法統一

 調査は99年に始まった。「自分たちでダイオキシン汚染を調べる方法はないか」。生協団体のメンバーが環境総合研究所(東京都品川区)に相談したのがきっかけだ。 摂南大は90年代半ばから、松葉のダイオキシン濃度を研究してきた。宮田さんの指導で「松葉ダイオキシン調査実行委員会」は、サンプルの採取方法などを統一した。 一つの地域で20カ所以上の松から葉をとる。1サンプルは松葉500〜600本で約100グラム。宅配便で環境総合研究所に集め、カナダの分析会社に空輸する。 ダイオキシン類のうち焼却炉などから大気中に放出されやすいポリ塩化ジベンゾパラジオキシン(PCDD)とポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)の合計値を測る。 昨年度は茨城から沖縄まで91地域、今年度は宮城から鹿児島までの115地域で調べた。市民団体などに輪が広がり、松葉採りや資金カンパに協力した人は全国で延べ約4万人にのぼるという。

 ●監視に成功

 コンピューターで解析した濃度マップは、汚染のすそ野を浮き彫りにした。首都圏を詳しく調べた99年度分では、東京都八王子市から神奈川県相模原市にかけてや、千葉県の常磐線沿線などで汚染レベルが高かった=図。

 「東京都心から50キロ圏は本来、環境が良好な住宅地のはず。でも実際には産廃焼却施設などが進出しやすく、高濃度の汚染があることが分かりました」と実行委事務局の池田こみちさんは話す。

 環境の監視に役立ったケースもある。相模原市の一部で99年度、松葉1グラム当たり約10ピコグラム(ピコは1兆分の1)が検出された。大気中の濃度に換算すると、国の環境基準である大気1立方メートル当たり0・6ピコグラムを超す疑いが浮かんだ。

 調査地点の近くでは、二つの産廃焼却施設が稼働していた。調査後、施設は県の指導などで炉を休止したり、高性能フィルターを取り付けたりした。すると、翌年度の松葉のデータは約5ピコグラムと半分に減った。

 ●今年も計画

 この松葉調査についての論文は、韓国で昨秋開かれた国際ダイオキシン会議で報告された。

 都道府県や人口の多い市などは大気をじかに採取して分析している。池田さんは「年に数回、大気中の濃度を調べる手法では、その日の風向きや気象などにデータが左右されやすい」という。

 実行委は今年も8〜11月に全国調査をする。松葉の採取と分析費の負担をしてくれる市民グループなどを募集している。問い合わせは環境総合研究所(03・5759・1690)へ。

(朝日新聞紙面より 2002/02/08)


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